MJ AIR 2019 デザイナーの日本滞在レポート

日本滞在中の3人のデザイナーからの毎週のレポート

2019年2月開催のMONO JAPANのイベント終了後、以下の3名がMONO JAPAN主催アーティスト・イン・レジデンスの最初の参加デザイナーとして選ばれました。

・パオ・フイ・カオ (会津漆器/福島)
・マリヤム・コードバチェフ (神儀装束/京都)
・ジョナス・アルタウス (石州和紙/島根)

 

多くの準備ややり取りを経て日本のそれぞれの産地へ飛び立った彼らから、毎週レポートが届いています。


ジョナス・アルタウス / 受け入れ:島根、石州和紙

レポート1: 島根に到着したジョナスから第1週目の石州和紙を知る体験などの写真が届きました。石州和紙は和紙の原料である楮を栽培し、和紙の制作までのすべてのプロセスを人の手によって行っています。ジョナスもこれらを体験、また石州和紙を語る上で重要な石州神楽の面を制作される工房も訪れました。石州神楽は現在もこの地域では非常に人気で、多くのグループが盛んに神楽を演じています。

 

レポート 2: ジョナスは障子建具の職人を訪れ、うちわワークショップを受け、和紙の応用方法を学びました。滞在してのち、多くのイントロダクションを通じて素材に親しんだジョナスは、ついにこれから和紙の中に導電性のある素材を入れ込むためのリサーチを開始します。

 

レポート 3: 島根に滞在するジョナスは、量産が可能で様々な応用性がある素材を作るために、これまでの数週間の素材実験結果を振り返りながら一つの方法論に焦点を当てることにしました。職人の方々のサポートをかりて、和紙の材料と導電性繊維を混ぜ合わせながらさらに綿密な素材研究をスタートしています。

 

レポート 4:たくさんの素材研究を経て得たレシピによって、ジョナスは数多くの導電性のある和紙の製造に集中することができました。 これまでに30以上もの導電性和紙の漉き、乾燥が完了しています。最終プロトタイプとして今回開発された和紙と組子の木工技術を使って、発光する障子ルームディバイダーを制作することも決定しました。この計画を実行するために地元の木工工房の吉原木工所が木部の制作をお手伝いいただくことになりました。ジョナスとたくさんの職人の方々の素晴らしいチームワークによって革新的なアイデアが具現化されようとしています。 

 

レポート5:ジョナスは漉きたての和紙の上に水滴を垂らして模様をつけるという伝統的な和紙制作の技法も彼の和紙制作に応用を始めました。その後和紙制作の過程を経て、今まで作ってきた紙のクオリティーを全てチェックしながら、ジョナスは発光する障子ルームディバイダーのプロトタイプに使用するための紙を選択。そしてタッチ感応イルミネーションのセットアップとコーディングをするためのシステムを準備しました。地元の木工工房で準備された木部のフレーム構造を受け取ってからは、木部パーツと和紙を組みあわせて三角形のモジュールの制作を開始。マイクロコントローラーやLEDなどの技術パーツをまず木部に組み込んだ後、和紙を裁断し糊付けしていきます。たくさんの助けを借りながら、10組の三角形モジュールが完成しました。 

 

 


マリヤム・コードバチェフ / 受け入れ:京都、吉田装束店

レポート1:マリヤムは京都の神儀装束でのレジデンスの始まりとして、京都のレクシ的な神社の数々やミュージアム、伝統的なテキスタイルメーカー、刺繍ワークショップなどへ訪れました。皇室衣装の資料を見る機会などもさらなる刺激となりました。衣装を制作する職人の情熱や伝統は、彼女のアイデアによって大いなるインスピレーションとなったようです。

 

レポート2:滞在開始時のイントロダクションも終わり、マリヤムはいよいよ色やデザイン、構造や細部などのブレインストーミングを開始しています。これまで学んだ伝統的な技術や哲学を活かしながら、彼女独自の翻訳、表現へとステップを踏み出しています。

 

レポート3:マリヤムの作業テーブルは今、色見本とテストサンプルでにぎやかに埋め尽くされています。アイデアを具現化するために様々な色見本や生地サンプル、構造のサンプルを使ってアイデアマッピングを始めました。トルソーの隣には実際の皇族の御装束。これを参考に、形やドレープのさらなる研究に進んでいます。

 

レポート4:京都では、マリヤムがテストサンプル作り、和裁技術のさらなる研究と勉強、布染めやフォトシューティングなどを通してデザイン作業を進めています。制作作業の片隅で装束作りにつかわれる意匠のこらされた美しい様々な道具にも彼女の目はひかれています。そして装束の特別なたたみ方、包み方に見られる職人の方々のひとつひとつの装束に対する思い入れにも心をひかれているそうです。

 

レポート 5: 京都ではマリヤムが選んだ色で最初の布が染め上げられました。職人の方々のサポートによって一つ目のプロトタイプの裁断や裁縫作業が進行中。何メートルもの手仕事が技がこめられています。京都の夏の一大行事、祇園祭もとても良いインスピレーションとなりました。 

 


パオ・フイ・カオ / 受け入れ:福島、会津漆器

レポート1: パオ・フイ・カオは福島県会津にて、漆のリサーチを開始しています。漆職人の訪問や漆の植栽地や地元のミュージアム、漆器フェア、木工工房などを訪れたりして漆の勉強を始めました。また100年前の漆器の食器を使った、伝統的な日本食での食事会にも参加しました。これらの多様なインプットを生かしてさらにパオの漆という素材のリサーチは続きます。

 

レポート 2: 会津に滞在するパオは、地元の漆職人の五十嵐さんや木地職人の方々などの仕事を見学、更なるインスピレーションを受けました。また彼女は地元の漆に関するコミュニティーに向けてのレクチャーも行いました。これまで産地にて学んだことをもとに、デザイン案を制作、今後の制作に向けて漆職人さんとのディスカッションが行われています。

 

レポート3: 会津に滞在しているパオは、これまでのたくさんのデザインスケッチを通して、サイズや形状を修正しながら最終的なデザインを作り上げました。彼女のデザインをもとに、20枚の木の皿がプレスマシーンにて形作られました。パオはさらに、彼女のデザインに応用可能な漆装飾の技法を探すため、装飾技術に特化した漆職人の工房を訪れました。

 

レポート4: 福島ではパオが色やテクスチャーなどのディテールを決定しながらプレートのデザインの最終工程を終えました。デザインプロセスを経てプレートは既に製造工程に入りました。プレート制作と同時に、彼女は新たなプロジェクトを始めようとしています。漆工芸はレジデンスの2ヶ月間でその全てを理解するのが難しいほど奥深い分野です。彼女は残された時間を最大限に使って彼女のアイデアを全て形にすることを目指し挑戦しています。

 

レポート5:木工工房にて成型された20個の木のプレートには様々な漆装飾が施されました。そのそれぞれ異なった装飾が施されたプレートは美しい色とテクスチャーのハーモニーを生み出しています。この漆のプレートプロジェクトの他に、パオは3つの鏡のデザイン案を完成させました。