MJ AIR 2019


 

MONO JAPAN アーティスト・イン・レジデンス・プログラム 2019 レポート

MONO JAPAN アーティスト・イン・レジデンス・プログラムは、2019年にMONO JAPANが日本のモノづくりとオランダのクリエイターとが出会い、協業できる機会を生み出そうと実施した新しい取り組みです。私たちのこのプロジェクトにおけるゴールは、日本の産地や製造業者、職人の得意な部分とオランダのクリエイターの優れた部分を持ち寄ることで、お互いにとって良いパートナーとなり、デザインやイノベーションと伝統技術が組み合わさった新しいものづくりの未来への可能性を見出すことでした。この日蘭間の協業のアイデアに賛同した3つの異なる地域のメーカーの方々が、プログラムへの参加を決定を表明してくださいました。参加してくださったのは、福島県の会津漆器、島根県の石州和紙、京都府の吉田装束の3つの団体で、地域性と結びついた伝統的なモノづくりをされています。このプログラムは、在東京のオランダ王国大使館、オランダの文化助成団体Stimuleringsfonds、そしてアムステルダム市のサポートにより実現しました。

オランダの優秀なクリエイターに広く呼びかけるため、2018年10月から2ヶ月にわたってオランダ国内のクリエイティブ業界に対し募集を呼び掛けました。多くの熱心なご応募をいただき、MONO JAPANチームと外部の専門家の方々とで2度の審査を行いました。2019年2月の第4回MONO JAPANのイベント中にも、最終審査に残った方々による公開プレゼンテーションを開き、この場には専門家の方々と日本から石州和紙、会津漆器の皆様にもお越しいただきました。

ここで選ばれたのは、パオ・フイ・カオ(会津漆器)、ジョナス・アルタウス(石州和紙)、マリヤム・コルバチェフ(吉田装束)の3名です。選抜後は3名のデザイナー達と3つの受け入れ先の皆様の間で数回の事前の打ち合わせが行われ、ついに2019年7月に2ヶ月に渡る日本の3産地でのレジデンスプログラムがスタートしました。滞在期間中にはデザイナー達はそれぞれの地域でのモノづくりを理解すべく、様々な工房を訪問したり関連するミュージアムを訪れたりし、それぞれ3組が親交を深めました。その後はモノづくりの体験や素材、技術に触れ、3名のデザイナーはそれぞれの滞在地で新しいアイデアやデザインプランを紡ぎ、産地の作り手の皆様とともに試行錯誤を繰り返しました。 

2ヶ月の集中した協業の結果、斬新な素晴らしい成果が数々作り出されました。レジデンシープログラムの直後の8月には、東京のオランダ王国大使館のご好意により、3名のデザイナー達がそれぞれの試作を持ち寄り公開プレゼンテーションを行いました。月曜日の夜にもかかわらず多くの来場者の方々が熱心に話を聞き、生まれたばかりのプロトタイプに興味を傾けてくださいました。

3名はオランダ帰国後も長距離を乗り越えて継続的に日本の作り手の方々と話し合い、試作で出来上がったものを実際に市場に流通させるべく商品化へと今も協業は続いています。MONO JAPANは2020のイベントの際に彼らの出来上がった商品の展示を行う予定でしたが、あいにくのコロナウィルスの状況によりイベントは延期となりました。MONO JAPANは今後、オンラインでのプロジェクトや活動を増やしていくため、MJ AIR 2019の成果もオンラインで紹介できないか、または実際の展示会を開催できないかと検討しています。

Team: 企画 中條永味子, AIRプロジェクトマネージャー・コーディネーター 本多沙映 



パオ・フイ・カオ

会津漆器とのコラボレーション

福島県



福島県会津に滞在し、奥深い漆について多方面からリサーチしたパオ・フイ・カオさんが編み出したのは、この伝統技法自体の「完璧さと不完全さ」を利用したデザインです。プレスマシーンで湾曲に形作った木皿をさらに分割し、そこに関美工堂の漆職人が装飾を施した後、各ピースを職人が金継ぎでつなぎ合わせて完成したこの食器シリーズでは、それぞれの技法の異なる工程によって不均一性が生まれています。これをパオさんは欠陥としてではなく、味のある特性としてとらえ、その結果、一つひとつ個性的な表情をもったプレートが、美しい色と質感のハーモニーを奏でています。また、パオさんはこの協業により、さらに3つの鏡のデザイン案を完成させています。

パオ・フイ・カオ
台湾出身、アイントホーフェン・デザインアカデミー卒のデザイナー・研究者・アーティスト。画期的な素材や伝統工芸、社会問題に関心が高く、彫刻やインスタレーションなど、「平凡な物や環境から生まれる非凡な美」を体現する作品づくりに取り組む。
paohuikao.com

関美工堂(会津漆器、福島県)
1946年創業。「木や漆のある暮らし・遊び」をコンセプトに、430年以上続く会津塗の伝統技法を活かし、未来に求められる価値を提案。
sekibikodo.jp



マリヤム・コルバチェフ

吉田装束とのコラボレーション

京都府



昭和元年創業の吉田装束店は、神官装束や神殿調度品などを扱う京都の老舗装束店です。「新しい発想をもって装束の普遍的な文化的美意識を継承」することを理念に、京都の匠の技を活かしながら、常に新しい装束の可能性を提案し続けています。一方マリヤム・コードバチェフさんは、プリーツやレイヤー、ドレープなどを駆使した造形的なデザインを得意とするアムステルダム在住のファッションデザイナーです。神儀装束の平面的なパターンづくりに魅せられたマリヤムさんは、神儀装束の特徴的なディテールと工芸技術を現代的な衣服のデザインに取り入れました。両者は2つのシリーズを含むコレクションの共作により、伝統装束の新たな可能性を開拓します。

マリヤム・コードバチェフ
アムステルダム在住のファッションデザイナー。2009年にArtEZ芸術学院卒業。服を「流動的な彫刻」と捉える彼女は、自然の中の有機的な形に着想を得る。ファッションブランドViktor & Rolfでデザイナーとして経験を積み、現在はフリーランスとして有名メゾンなどのデザインを手がける。
maryamkordbacheh.com

吉田装束店(神儀装束、京都府)
神官装束や、その他さまざまな装束や神殿調度品、祭典用具などを、独自のネットワークを駆使し、京都の匠の技を結集し制作する。
shouzokushi.com



ジョナス・アルタウス

石州和紙

島根県



千年以上も前から、島根県西部で人の手により作られてきた石州和紙。石州で採れる楮(コウゾ)を使った和紙は、日本で最も強度の高い紙として知られています。ジョナス・アルタウスさんは石州和紙久保田および西田和紙工房を訪れ、楮の栽培から和紙の制作まで、和紙づくりのすべての工程を体験しました。人間同士のインタラクションやデジタル技術を専門とするデザイナーとしてジョナスさんが考え出したのは、導電性の和紙と組子の木工技術を使った、発光する障子のルームディバイダーです。三角形の枠に貼られた障子紙に触れると、センサーが内蔵のLEDを作動させ、カラフルなやわらかい光が浮かび上がります。テクノロジーと伝統的な職人技が組み合わさった、実験的な作品です。

ジョナス・アルタウス
オランダを拠点とするアーティスト兼デザイナー。2018年にアイントホーフェン・デザインアカデミーのソーシャル・デザイン科で修士号を取得。社会的側面に配慮したインターフェースや、人とテクノロジーの間のインタラクションやコミュニケーションに焦点を当てた制作を行う。
jonas-althaus.com

石州和紙久保田、西田和紙工房(石州和紙、島根県)
全国で唯一、材料の楮の栽培から製造まで、すべて一貫して手作業で和紙がつくられている産地から、2つの工房が協業に参加。
sekishu.jp